第 一 章



【気】とは何?   

【健康って何?】

「気が衆(あつ)まれば即ち生、気が散ずれば即ち死。」これは荘子の言葉です。「気は生命の源」とか「気を養うは健康の秘訣なり」とかよく私達は耳にしますが、しかし【気】とはどんなものなのでしょうか?また【健康】とは、一体どのようなことをもって健康と言うのでしょうか?これらの事について、以下、皆様に出来るだけわかりやすく説明していきたいと思います。
 
さて、現在私達の周りを見てみれば、異常なほどの健康ブームです。雑誌を見れば『○○健康法』、テレビを見ても『奥様○○健康情報』等々。過日、テレビのある番組で、ココアは体にとても良いと言った途端、店頭からココアが一斉に売り切れてしまったというような現象があり、挙げ句の果てには、ココアを飲みすぎて体の調子がおかしくなったと言う人まで出る始末です。また○○石鹸が体の脂肪をとって減量に良いというと、品物が無くなって入荷待ちになったということも聞いたことがあります。以前にも紅茶キノコやぶら下がり健康器という健康ブームがありましたが、今は一体何処へ消えてしまったのでしょう。
 このような健康ブームって本当に健康なのでしょうか?とつい考えさせられてしまいます。健康とは「すこやかに」「やすらかに」と書き、心身の調和を目的としたものがこの【健康】という意味です。

 それでは心の健康はどうでしょう?例えば、書店の精神コーナーには『超○○瞑想法』『驚異の○○念力法』『驚異の気○○パワー』等々、数え上げたらきりがありません。驚異とは「驚いて異なるもの」と書き、超とは「普通ではない」という意味なのです。街角で、顔色の悪い若者が見知らぬ人に手をかざしている光景や、社会問題になりましたオウム真理教が、水中に何分潜れるかとか、座ったまま空中にどれぐらい飛び上がれるか等を競い合っていた事は、正に【驚異】とか【超】ではありませんか。もうここまできたら正気の沙汰ではありません。私達はもう一度原点にもどって【健康とは】と言うことを考えなおす必要があるのではないでしょうか。


【気功って何?】

 最近、中国から伝わって来た【気功】が、この「心身の調和」を目的とした健康法の中で、一番良いと言われだしてきたのはどうしてなのでしょうか?この気功とは一体どのようなものなのでしょうか?
 まず、気功の【功】という字は「効用」とか「日々努力を積み重ねる」という意味があります。では気功の【気】という字についてはどういう意味があるのでしょうか?以下【気】についてお話してみたいと思います。

 【気】という漢字は2つの意味に使われ、1つは「空気・電気・磁気・気圧・気体・天気・気候・気象等(空間を満たし、目に見えない物、またはガス状の物)」、つまり自然界の物(物質的)に使われます。 
 もう1つは「元気・気質・気性・気分・気が合う・気が強い・気が短い・気を付ける・気を張る等」心理面(精神的)に使われます。所謂【気】とは一言で「エネルギー」だと言っていいでしょう。
 ところが、電気の気も元気の気も、同じ漢字が使われているということは、電気のエネルギーも元気のエネルギーも、素は一緒だということになります。本当にそのような事があるのでしょうか?


【エネルギーとは?】

 それではエネルギーの定義から調べてみましょう。

『講談社日本語大辞典』より、
エネルギーとは・・・
@基本的な物理量の一つ。物体が仕事をする事の出来る能力。色々な形態が可能であり互いに変換しうるが、総量は保存される。種類として「力学的エネルギー(位置エネルギーと運動エネルギー)・熱エネルギー・質量エネルギー等」。単位は「エルグ・ジュール・カロリー・電子ボルト等」。 
A事などを成し遂げる心身の活力。精力。
まず@の【質量】と【エネルギー】の関係について。アインシュタインの『相対性理論』では「E=mC2エルグ(Eは仕事量、mは物質の質量、Cは定数光速度〔1秒間に、299,792q〕)」つまり物質は、エネルギー粒子の集中によって形作られ、1gの質量が、石炭約3,000tのエネルギーに匹敵するということです。
 また量子力学においては、真空は単なる空虚ではなく、エネルギーの海であることがわかっているので、この宇宙は無限大のエネルギーの塊ということになります。
 先程のエネルギーの定義にもありましたように、変化しながらも総量は保存されるという「エネルギー不滅の法則」は、宇宙のエネルギーは増えたり減ったりせずに、永遠であるということを意味します。このことは仏教の『般若心経』の中で「不生不滅・不垢不浄・不増不滅」という文字で、既に書かれてあります。


【ニュートンの法則】

  更に、無限大のエネルギーは、永遠に運動し続けているという事で、これを言い換えると「諸行無常」と言い、『諸行』は常にあらず変化(運動)し続けているという意味になり、その変化(運動)も、また無秩序ではなく、ある一定の法則に則っています。ここでニュートンの運動法則を見てみますと、
 第1は「慣性の法則(惰性の力)」、
 第2は「運動量の変化は力の作用に比例する」、
 第3は「作用反作用の法則」
という 3つの法則があります。
また他にもあらゆる法則が働いており、これらの法則は、私達の肉体を見てみるとよくわかります。私達の肉体の約60兆個といわれる細胞は、絶えず新陳代謝を繰り返しており、体組成は30種類以上の元素から出来ています。主な元素は「酸素(О)65%・炭素(C)18%・水素(H)10%・鉄・カルシウム・リン・銅等々」です。昔から人間は「死んだら三合の灰」と言われ、燃えたら「CO2(炭酸ガス)」と「H2O(水)」に変化して、空気中に溶け込み、残りは土に還り、そしてそれを植物が吸収し実をつけ、また人間がそれを食し栄養とし、子供を生み続けているのです。ここでもエネルギーは、運動の法則に則って形を変えてゆきますが、質量は不変であるということが見られます。
 またエネルギーの法則には「円運動をしながら進んでゆく」という法則があるので、月は地球の周りを、地球は太陽の周りを、太陽系は銀河系の周りを回り続け、ミクロの世界の原子を見ても、電子が原子核の周りを回り続けています。
 それにまた肉体を見ても、心臓を中心に血液が循環し、家庭を見ても、主人を中心に家族が回り、会社を見ても、社長を中心に、国を見ても、首都を中心に経済が回るといった風に・・・、何か不思議なものを感じてしまいます。
 このように【諸業(宇宙のあらゆる物質の動き)】は、法則をもとに変化(連動)し続けているということが、よくわかって頂けた事と思います。実は「気功」や「太極拳」の極意も、この『円の動き』なのす。


【精神的エネルギー】 

 では「精神的なエネルギー」の方はどうでしょう。パスカルは「人間は無に等しい存在だが『考える葦』という点で、偉大な存在である」と言っています。さて先程も言いましたように、元気の「気」も電気の「気」も同じエネルギーではないか、と言うことでしたが、では「精神的なエネルギー」を、ニュートンの3つの法則に当てはめてみるとどうでしょう?

 第1の「慣性の法則」は、心に働いているのでしょうか?
 人間は「わかっちゃいるけど・・・。」という事よくありますし、また「無くて七癖」といって、一度ついた習慣はなかなか直しにくいものです。だから良い事をすれば良い習慣が、悪い事をすると悪い習慣がついてしまいます。これらは心の『慣性の法則』が働いているからです。
 第2の「運動量の変化は力の作用に比例する」、この法則とは人間がする仕事(運動)の量は【意思力】という力の作用に比例する、という事と同じではありませんか。
 第3の「作用反作用の法則」においては、人間は物事を自分の思い通りに運びたいと思った時、同時に心の中で思い通りに事が運ばなかったらと思ってしまう事があります。また誰かに嫌なことを言われたら、つい反感を持ったり、言い返してしまいます。これは心の「作用反作用の法則」が働いているという事です。
 私達はよくこう言う言葉を使います。「気が重い・気が軽い・気が大きい・気が小さい・気が早い・気が回る・・・」まるで、心が物質であるかのような言い方をします。このように【物質の気】も【精神の気】も同じ法則内に存在していると言うことがわかってきます。



「精・気・神」とは?


【物質=精神】

 ここで中国の伝統医学において『三宝』と言われてきた【精・気・神】について説明します。
 【精】は「人体を構成する基礎物質である」、【気】は「生命を維持する活動エネルギー」、【神】は「思惟・意識活動を示す」とあります。
 これを宇宙に当てはめてみますと、【精】は「エネルギーの集中固定化した物質(星)」、【気】は「変化(運動)し続ける力」、【神】は「宇宙の意識(空間)」ということ。
 また人間に当てはめてみれば【精】は「身体」、【気】は「呼吸」、【神】は「心」になります。所謂、気功の「調身・調息・調心」の事です。
 なぜ【気】が「呼吸(息)」なのかと言いますと、呼吸は「はく(陽)」と「吸う(陰)」を繰り返し、「陰陽の変化(運動)」をし続ける事、つまり変化(運動)は陰陽の法則の中に「循環」という法則を守っているからです。これが生命ということで、呼吸とは生きるという意味で「息(いき)」とも言います。この動き(気)が、物質にも心にも働いているのです。


【波動と媒質】 

 この陰陽の動き(気)の事を、わかりやすく言うと「波の動き」と言い、つまり「波動(エネルギー)」という事です。皆さんは、海に行かれて波を見たことがあるでしょう。この波というのは、沖から陸に向かって来ています。海底で地震があると、津波が起こる現象もそうです。しかし震源地の海水が、陸に運ばれるのではなくて、逆に潮の流れは、反対に進む事もあり、それは、波が海水を伝わってきているという事になります。
 つまり、私達は波自体を目でとらえるのではなく、海水を通して、波という形を目でとらえているに過ぎません。波を伝えるものを「媒質」といい、この場合、海水が媒質になります。
 ここで光の波の速度を見てみますと、光の速度は1秒間に約30万q。この波動の速度を波長(波動の山の頂点から次のとなり合う山の頂点迄、または谷から谷の距離)で割ると、1秒間に何回振動するかが出てきます。





 この単位が「サイクル(ヘルツ))」です。空気などの媒質の振動によって生ずる波、これを「音」と言い、毎秒約16〜20サイクルから16〜20キロサイクルの音を個人差はあるものの、私達は耳に捕らえることが出来ます。高い音は電波として「長波・中波・短波」、普通ラジオ放送とはこの中波の事で、テレビは超短波を使っています。つまり3キロヘルツから3000キロヘルツの範囲のものを言います。
 それ以上になりますと「赤外線・熱線・可視光線」となり、この可視光線の波長は、丁度私達の目でとらえられる波の事で、0・78ミクロン〜0・38ミクロン、つまり10万分の7.8pの赤色から、10万分の3.8pの紫色の範囲となってきます。それ以上波長が短くなってきますと「紫外線・]線・ラジウム線・γ線・宇宙線」となり、これらを総じて「電磁波」と呼んでいます。
 しかし、1905年にアインシュタインは『光の本質は光子という粒である』と、画期的な見解を発表したのです。この「光子」は、光を含む電磁波を構成する粒子で、絶えず光速で運動しており、「フォトン」とか「光量子」とも呼ばれています。わかりやすく言うと、光は粒子のエネルギーであり、空間の媒質を波動的に直進しているのです。


【干渉と回折】

 この波動という波の特徴に「干渉」と「回折」があります。波の「干渉」とは「波と波が合わさる時、山と山、山と谷、谷と谷がプラス・マイナスの値にとって重ね合わせる事」を言い、昔、皆さんも理科の実験などでした事があると思います。
 また波の「回折」とは、波の進む途中に障害物があった時、波長よりも障害物が小さいと、波はほとんど影響を受ず、障害物の背後に回り込む事で、また波と障害物の大きさが同じ位になると、回折は少なく、波は四方八方に散っていきます。これを「波の散乱」と言います。
 又、量子論では「波と考えられていた光が粒子ならば、粒子である電子も波と考えてよいのでは?」という事からこれを「電子波」と呼び、電子顕微鏡等に利用されています。この自然界には「海(水)の波」や「音波・地震波・電波・光波・物質波・重力波等」色々な波が存在しています。
 ではこの波の特徴の干渉と回折が、心の波にも働くのでしょうか?
 例えば、陽気(プラス)な人同士が集まると、より一層プラスになり、陰気(マイナス)な人同士が集まると、より一層マイナスになるという事は、波の干渉が起こっているといえますし、また波長(心)の大きい人は、小さな障害物を気にしませんが、波長が障害物と同じ位では、心に衝撃を受け波の散乱が起きてしまう、これも「心の波の法則」と「物質の波の法則」に一致しています。



物質・動き・意

【練精化気とは?】

 さて肉体に話を戻します。中医理論の『三宝』と言われる「精・気・神」を鍛練する事を「練精化気・練気化神・練神環虚」と言います。では【練精化気】とはどういうことでしょう?
 これは「肉体(精)運動(気)」つまり「脳波・心拍数・心音・血圧・呼吸数・蠕動運動・咀嚼運動・歩行等」全て陰陽の動きの波、わかりやすく言うと「肉体の波のリズムを整える事」で、気功では「動功」と言われる動きがそうです。この動功の1つに揺すり運動があり、これは体全体を揺すって波を起こし、エネルギーを整えるのです。
 皆さんは、寒いとき体が自然に震え出したり、ドア等で指を思いきりはさんだ時に、痛くて指が小刻みに震えたり、またテレビドラマの中で、元気の無くなった人や死にそうな人の両肩を持って、必死に前後に揺すっている光景を見たことがあるでしょう。このように人間の肉体が弱った時は、体を震わせてエネルギーを取り込むのです。


【練気化神とは?】

 また【練気化神】とは、動きそのものを調和すると【神】つまり心が調和してくるという意味です。例えば、皆さんはイライラした時、貧乏揺すりをしたり、熊のように同じ所ウロウロすると、気持ちが少し落ち着きませんか?それに怖い目に会った時は、自然に体が震え出したり、戦いの前には武者震いが起こります。これらの事は、波を起こして心【神】にエネルギーを補給しているのです。 また、心にも波の動きが働いていると言うことは、漢字を見ればよくわかります。「意識・意思・意志・意気・敬意・好意・誠意等」と使われている【意】という字は「心の上に音」つまり【意】は「心の音」という事になり、【音】は正に「波動」です。
 音には「調和音」と「不調和音」があり、よく3つの音の「3和音」というのを用います。人間も3人集まれば、性格が違っていてもうまくかみ合う人と、かみ合わない人があったり、ある人とは波長が合うとか、ある人とは合わないとかよく言いますね。また「共鳴」と言って、学校で鋼鉄製のU字型の物に柄をつけた「音叉」というもので、理科の実験をしたのを覚えておられますか。2つの音叉の波長が同じか、またそれに近いものの片方の音叉を鳴らすと、もう一方の音叉が共鳴して鳴りだすという現象です。
 皆さんは胸が高鳴るとか、感動で胸が震えるという経験がありませんか?心の感情の分野は正に【音】そのものなのです。嬉しいとき感情が震え、逆に怒りが絶頂に達した時も、感情が震え出し体まで震えだしてしまうのです。それに神社に行った時、柏手を打って鈴を鳴らしますね。これは心の振動を形に現したものだと言えます。


【練神環虚とは?】

 このような事から、【神】つまり「心」を練ることを【練神環虚】と言い、虚に還ると言われます。心を練るとは「心【神】の動き(気)を見つめて、心の波を調和する」そうすると虚に還るということです。
虚とは「宇宙の見えないもの」つまり「自然の心」という意味であり、自然の心とは、宇宙の法則によって調和している姿そのものの心だといえます。
 所謂「練神環虚」とは、自分を見つめて心を正していくと、自然と一体になれるという意味で、これを気功では「静功」と呼び、「動功」と「静功」を行ってはじめて【健康】と言われるのです。
 このように見てきますと【気】は大きく3つにわかれますが、元は1つだとわかります。1つは「物質(肉体)」、1つは「動きそのもの(波)」、1つは「意(心)」。


【色即是空空即是色】

 仏教の『般若心経』の中には「色即是空・空即是色」と書かれており、この意味は「色(物質・肉体)は、空(空間・意識)と同じもので作られている」という事になります。
 
 以上が【気】という概念についての説明です。
 次章は、気功を習うとよく出てくる【丹田(たんでん)】という言葉の意味について、説明をしていきたいと思います。

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